かつて暮らしていた町は十割蕎麦で名を知られており、10月の新蕎麦の季節には蕎麦祭りが催されていた。
人口3,000人余りの小さな町のメインストリートに、町内だけではなく、近隣の蕎麦どころのお店がテントを並べて味を競い合う。
我が集落でとれる蕎麦は美味しいと評判で(昼夜の寒暖差が大きいのと、土壌が適しているらしい)、蕎麦屋ではないものの、集落として毎年参加していた。
お客さんたちはテントをハシゴして味比べ。
地元産の野菜やカフェの屋台も軒を連ね、
時折りイベント会場で歌うシンガーの声が聞こえる。
殆どシャッターが降りている、普段は静かな通りが、その日だけは大賑わい。
そして、宴もたけなわの夕刻、新蕎麦祭りのメインイベントのはじまり、はじまり。
ピピ〜ッ!!
という笛吹の合図に続いて聞こえるのは陽気なサンバのリズム。
打楽器を中心とした鼓笛隊を先頭に、男の子のダンサーが楽しげに踊りながら続く。皆んな、麦わら帽やらカラフルな衣装をまとっている。
そして、やってきました、きましたよ、大きな羽を付けた、素敵な衣装の、妖艶に踊るダンサーふたり。
テレビでしかお目にかかれない、リオのカーニバルのダンサーだ!
沿道の人々は(特に男性陣)大はしゃぎで歓迎。意外と田舎の人たち、ノリがいい。
しかし、このさびれた片田舎でサンバ・・
漠然とした違和感を感じたのは私ひとりか?
まぁ、楽しかったからいいか。
久々に踊れたし。
後で聞いたら、町の商工会が20数万ほど払って、某大学のサンバ同好会の学生を呼んでいるという。
行進が終わってひと息、
私服に着替えたダンサーの女の子たちが、我が集落のテントに蕎麦を食べにやってきた。
「そうか、そうか。(何が〝そうか〟は不明)
大盛りにしてやっからな、食べっせ」
とは我が集落のオン年80歳の蕎麦打ち名人。
「ご馳走様でした〜♪」
と去っていく女の子たちの背中を見て、
名人、誰に言うともなくつぶやいた。
「あんなハダカにならんといかんとはなぁ。何やらワケがあんだわなぁ・・」
ひとり、心の中で爆笑の私でした。